2019年11月26日号。<ローマ教皇来訪 / 輝いていない日々 第23回:花房観音>

 おはようございます。ヨロンです。

 昨日午後、横浜での打ち合わせに向かおうと事務所を出ると、目の前に白バイが10台ほど。そして、その後に黒塗りのワゴンとセダンが数台続いて市ヶ谷方面に進んでいきました。
 2週間ほど前から、街頭に立つ警官の数が増えてきていたので、何だろうと思っていたのですが、ローマ教皇訪日におけるテロ対策だったのですね。

 来日してわずか2日間で被爆地をまわり、震災の被災者や若者たちの声を聞き、天皇陛下、安倍首相と会見。そして東京ドームでのミサと、その活動は驚くばかりです。
 東京ドームでは、仏教の僧侶や他の宗教の関係者、NGO関係者や死刑囚の袴田巌さんも呼ばれ、宗教を超えた盛大なミサが行われました。

 教皇は、各地をまわりながら一貫して「平和や貧困撲滅で協力拡大を」、原発事故を通じて「未来世代への責任に気付かねば」、『核なき世界』の実現などを訴え、思想や宗教を超えて、日本を西から東に風のように流れていきました。

 まるで空気が一変したかのような気がしたのは、ここ3週間ほど特に、日本社会が嘘や誤魔化しで塗りつぶされていたからかもしれません。宗教なんだから理想的なことを言っているだけだ、という穿った見方もありそう。それでも、教皇の言葉が胸を打つのは、そこに人類が目指すべき方向性が示されているからなのでしょう。

 私はクリスチャンではありませんが、幼児のころ通ったのが、たまたま「聖ミカエル保育園」というキリスト教の保育園で、そこでのいくつかの思い出や教えは、今でも心の隅に残っています。それらは、いろいろな経験を積んだり、考えが変わったりした今でも同じように自分の中に常駐していて、教皇の言葉がすっと入ってくるのです。

 唯一の被爆地であり、大きな災害や原発事故に見舞われた日本から世界に向けて発信されるメッセージは、世界中のキリスト教徒だけではなく、問題を抱える多くの人々に伝わったことでしょう。

 私が観音さんと初めてお会いしたのは、2014年7月3日に行われた『血気酒会』のときでした。もちろん官能小説は知っていましたが、女性作家だということで、かなり緊張して迎えたのを覚えています。
 当時は相当ひどい偏見があり、「暗くてエロエロな感じで、いきなり『イエーイ、へっへっへ』なんて来られたらどうしよう」とまったく根拠の無い不安でいっぱいだったのですが、実際にお会いしてみたら、穏やかで明るく、作家らしい知的な佇まいの女性だったので安心しました。
 それから5年も経つんですね。今は毎週コラムを送ってきてくれるときに何度か軽くメッセンジャーでやり取りするのが習慣となりましたが、これが家族と話しているような感覚なのです。
 ちょうど1年前に久々の再会となったのですが、お互い涙で言葉も交わすことができませんでした。翌日の夜には酒を飲みながら一緒に「勝谷のバカヤロー」と叫んでいましたが。

 そして1年。不思議な縁ですが、大事にしていきたいと思える財産となっています。

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 輝いていない日々 第23回

 花房観音(小説家)

 先週、清原和博のことを書いたら、今度は沢尻エリカが逮捕されてしまいました。
 ひたすら、清原と同じく、「惜しい」と思いました。
 岡崎京子の漫画の中で、一番好きなのが「へルター・スケルター」です。全身整形のモデル・りりこが、美貌を武器に芸能界の頂点に上り詰め、崩壊していく物語ですが、女の若さと美、欲望の虚無を描き切った傑作です。
 岡崎京子はこの本が出たあと、交通事故のため、命は取り留めたものの、人前に出ることも作品を発表することもなくなりました。
「へルター・スケルター」が映画化されると聞いたときは、あの傑作がどうなるのかと不安だったのですが、見に行って、沢尻エリカの「りりこ」が、あまりにもはまり役で驚きました。空虚で完璧な美貌、張りつめた精神の脆さ、そして生命力あふれる戦慄のラスト……すごい女優だと、圧倒されました。
 芸能人の不倫や、薬物などのニュースが流れる度に、世間はけしからんと叩くけれど、「でも、あの人たち、そもそも普通の人じゃない。社会性を求めるのはどうなんだろう」と考えてしまいます。もちろん、いけないことをしたら裁かれ罰を受けるべきですけれど、神から与えられた圧倒的な才能を持つ人たちには、その引き換えのように大きな欠損があるのが当たり前だとも思うのです。
 こういうことSNSで書いたら、「犯罪者を擁護する気か!」と、正義の味方マンたちから叩かれてしまいますけどね。しかしそういう人たちは、どれだけ清廉潔白で高潔な人格者なんでしょうかね? 

 さて、先日、ちょっと地元に戻ってまいりました。
 「夫婦みち」を唄う「オーロラ輝子」という歌手をご存じでしょうか。
 おそらく、ある程度の年齢以上の方は、ああ、懐かしい! と思われるでしょう。
 オーロラ輝子は、1997年の紅白歌合戦にも出場し、「夫婦みち」は大ヒットしました。
 しかし「オーロラ輝子」は、実在しません。ドラマの中の登場人物、つまりは架空の存在のはずでした。
 1996年から1997年にかけて放映された、NHK朝の連続テレビ小説「ふたりっ子」は、大阪、通天閣の下の新世界を舞台にしたドラマで、双子の主人公たちが人気を博し、大ヒットしました。ドラマの中に双子の父親の焦がれる歌手として登場したのが、オーロラ輝子です。演じたのは、女優の河合美智子さん。
 オーロラ輝子は、ドサ周りの歌手という設定でした。もともとは双子の父親役の段田安則さんが、舞台の仕事が入っていてドラマ収録を休まねばならなかったので、その間、「演歌歌手に惚れて、家を飛び出てその歌手のドサ周りについていく」という設定を作り、「オーロラ輝子」というキャラクターを創作したそうです。 
 ところが爆発的な人気が出て、「オーロラ輝子」はドラマのレギュラーとなり、劇中で唄った「夫婦みち」が大ヒットして、現実の紅白出演までを果たすのです。
 オーロラ輝子のモデルは、「通天閣の歌姫」と呼ばれる叶麗子という歌手です。叶さんは頭に通天閣を乗せて歌っているのが特徴で、「オーロラ輝子」も同じように着物に通天閣を頭上に乗せていました。
 オーロラ輝子という架空の人物名で、紅白出場を果たした河合美智子さんは、中学生のときに、相米慎二監督「ションベン・ライダー」のオーディションに合格し主演、そのときの役名「河合美智子」をそのまま芸名とし、映画、テレビ、舞台と活躍します。
 売れっ子女優だった河合さんが脳出血で倒れたのは2016年です。命を取り留めたものの、身体に麻痺が残りリハビリを続けます。もう今までのように仕事はできないと、事務所を退社し、闘病生活を支えた恋人で俳優の峯村純一さんと2017年に結婚されました
 河合美智子さんが、兵庫県豊岡市に移住されたのは、2018年10月です。私はそのニュースを見て、驚きました。なんで豊岡?? 但馬?? 
 豊岡は私が生まれ育った地元です。高校卒業まで暮らし、また30歳を過ぎてからも数年間過ごしました。田舎で、不便で、人間関係も濃密で、どこにいっても知り合いだらけで、早く出たいと願い続けていた土地です。東京で暮らしていた有名な女優さんが、どうして但馬に?? と、不思議でしょうがなかった。
 河合さんは、仕事で豊岡市出石の永楽館という明治時代に作られた劇場に仕事で訪れたときに、「ここに住みたい!」と思われたそうです。そして病気により、今までのように仕事ができなくなって、移住を決め、ご夫婦で豊岡に来られ、現在は地元のFM番組にレギュラーを持ったり、豊岡という街に馴染んで、ときどき舞台や講演などの仕事をしながら活動されています。
 そして先週、豊岡の「豊岡劇場」という映画館で、河合さんが出演されている「みとりし」の上映後のトークに夫の峯村さんと共に登壇されるということで、行ってまいりました。
 もともとは、「みとりし」白羽弥仁監督に、「河合さんに花房さんのこと話すと、一度会いたいと言ってる」と聞いていたので、じゃあ私が豊岡に行きましょうかという話になったのです。白羽監督との縁も但馬繋がりで、私の豊岡高校時代、同じクラスだった女優の街田しおんさんがご縁です。
 ちなみに白羽さんは芦屋出身、神戸在住なのですが、サンテレビ制作による「神戸在住」という映画も監督されています。白羽さんによると、当時、サンテレビ「カツヤマサヒコSHOW」に出演していた勝谷誠彦にも出演オファーをしたけれど、スケジュールの都合で叶わなかったとか。
 豊岡劇場で初めてお会いした河合美智子さんは、少女のような雰囲気を纏い、気さくでとても可愛らしい方でした。
 豊岡劇場も、昭和初期に創られたもともと芝居小屋だった古い建築で、一度廃業したところ、クラウドファンディングにより蘇り、カフェ等も併設し、地元の人々に親しまれている劇場です。私が生まれて初めて映画を観たのも、ここでした。
 河合さんは、「豊岡は本当にいいところです。来てよかった。この場所の良さをアピールしていきたい」と語られていました。
 演出家の平田オリザさんも劇団と共に豊岡に移住され、再来年には豊岡に全国初、県立の演劇を学ぶ大学が新設され、平田さんが学長に就任するそうです。豊岡に井戸知事が訪れている写真も見ました。ついつい井戸さん見ると、勝谷さん思い出しちゃいますね。

 さて、12/5に、新刊が出ます。いつもなら「買ってください」と宣伝で終わるのですが、今回の本については少しだけ書いておきたいことがあります。
 タイトルは「好色入道」、2016年1月に実業之日本社から刊行された単行本の文庫化です。京都市長選挙を舞台に、不細工な坊主・秀建が暗躍する小説です。
 主人公・秀建は、もともと私のデビュー作、第一回団鬼六賞大賞受賞作「花祀り」に登場する端役でした。けれど一部の人たちから支持され、実業之日本社が出した「果てる」というアンソロジーの中の短編を依頼された際に、「ぜひ秀建で」と頼まれ、「海の匂い」という話を書きます。そののち、連載の話が来た際にも、「秀建で長編をお願いします」と言われたのです。
 秀建が主役というのは決まっているものの、何を書こうかと模索していた頃、京都・吉田山の麓にあった屋台のおでん屋で、友人である角田龍平弁護士と、その妻・彩子さん、また取材を通じて親しくなった読売新聞文化部の森重記者と飲んでいました。
 少し前に、森重記者が、「新聞記者を登場させるときは、僕を取材していたらいいですよ」と言っていたことを思い出しましたのと、角田さんの元上司が橋下徹さんで、角田さんと「選挙でぇへんの?」「出ません」というやり取りもしていました。
 角田さんが選挙に出ないのなら、小説の中で出馬してもらおうか……と、「秀建さん主人公で連載すんねんけど、モデルにしていい?」と、その場で承諾を得ます。
 そして元漫才師のタレント弁護士「澄田龍平」が、秀建をはじめとした京都の大物たちに担がれ、京都市長選を戦うという話を描くことに決めました。森重さんには、「毎朝新聞の森繁記者」として登場してもらいます。
 連載がはじまったちょうどその頃、毎年恒例の「カツヤマサヒコSHOW」の奈良エロツアーのロケがあり、「好色入道」の話になりました。今、知り合いたちをモデルにした話を書いていると、私が言うと、隣にいた勝谷さんが、「俺も出たい。出して」と言ってきたのです。
 私は何も考えず、「いいよ」と答え、選挙活動をする澄田龍平弁護士の危機を救い、応援演説をする「三尋来人」を登場させました。名前は、勝谷さんの風俗ライター時代のペンネーム「三尋狂人」をもじったものです。
「好色入道」は連載を終え、2016年1月に単行本として発売され……話はそれで終わりませんでした。
 2017年、勝谷さんが兵庫県知事選挙に出馬を表明しました。
 え?? 何?? 好色入道?? と、驚きました。小説の中で「三尋来人」は、「世の中を変えたければ、あんたが選挙に出たらいい」というようなことを口にしています。
 その後の展開はご存じの通り、勝谷さんは知事選に敗退し、「暇だ」とメールの中でも繰り返し、酒に耽溺していきます。

「好色入道」文庫化の話が来たのは、昨年の夏でした。担当編集者は、「解説、勝谷さんがいいですね」と言っていましたが、私は内心、文庫が出る頃に、勝谷さんが解説の文章を書けるほど回復しているだろうかと危惧していました。正直、無理ではないかとも考えて、言葉を濁していました。
 そして去年の11月、亡くなります。
「好色入道」文庫化のために、今年の秋から改稿、ゲラチェックなどの作業をして、つい最近、やっと手が離れたところです。
 作業中は、どうしても「三尋来人」が登場する場面を読む度に、思い出さずにはいられませんでした。
 小説が、どれだけ作家自身を投影しようが思い入れが強かろうが、それは作品の出来や読者には何の関係もないことです。それでも敢えて書きますが、「好色入道」の主人公・秀建は、私自身が色濃く反映されています。不細工、貧乏、モテない、気持ち悪いと嘲笑、馬鹿にされ続け、恵まれた人間たちへの嫉妬をエネルギーとし、自分を見下した人間たちを見返してやるために努力をして、京都の街で這い上がって、自らを「わしは一生、底辺や」とうそぶく秀建は、私自身です。「好色入道」を書くときは、まさに「獲り憑かれた」ような状態でした。
 文庫版の解説は、小説家になる前からの友人でもあるノンフィクション作家の中村淳彦さんに依頼しました。中村さんの最高傑作は「名前のない女たち 最終章」だと思っているのですが、その文庫化の際に、ブログに書いた私の感想を解説として使ってもらいました。当時、私は小説家でもなんでもありませんでしたので、名前も別です。それもあって、以前から一度頼みたかったのです。

 そして、これも普段はやらないことなのですが、文庫本の最後に、勝谷さんについて、少し書きました。彼はもうこの世にいませんが、小説の中では永遠に生き続ける。何も考えず「俺も出たい」と言われるがままに小説の中に登場させたのですが、今となって、書いてよかったな、と思います。

 11月28日が近づいてきました。
 もうすぐ一年。
 ひとつの区切りでもある、このタイミングで、「好色入道」が再び書店に並ぶのも、縁なのかなと思います。

「好色入道」
https://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-55557-7

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