2020年5月24日号。<政権の正念場 / エッセイ【年末年始の情景につひて(その一)】:漆嶋稔>

<政権の正念場 / エッセイ【年末年始の情景につひて(その一)】:漆嶋稔>


 おはようございます。ヨロンです。

 関西圏では緊急事態宣言解除後の初の週末ということで、繁華街では結構な人出だったようですね。
 日曜日なのでのんびりした話題を、と思っているのですが、大きなニュースが入ってきたので、そちらを取り上げます。

 まずはコロナ関連で。
 関東圏と北海道は、明日緊急事態宣言が解除となります。一応建て前としては、明日報告のある感染者数を見て発表となりますが、すでに報道が「最終調整」として、解除ありきで根回ししているとなっています。
<政府「緊急事態」25日解除へ最終調整 西村担当相「いい傾向」>
https://news.yahoo.co.jp/articles/edbf4163c7cdffaaf65f076f17373a5371f83cf9
<政府は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い発令を継続している北海道、埼玉、千葉、東京、神奈川の5都道県の緊急事態宣言を25日に全面解除する方向で最終調整に入った。専門家の意見を開き、新規感染者数の推移や医療提供体制を分析した上で安倍晋三首相が総合的に判断する。>

 月曜日は、週の中で最も感染者数の報告が低く出るので、明日解除となるのは間違いないでしょう。政府としてはなんとしても解除にもっていきたいので、わざわざ木曜日ではなく月曜日にしたということもあるはず。
 そうなると、特に「足を引っ張る」(黒岩知事談)神奈川県としては、数字を無理やり抑えても目標を達成しなければならない。一桁の最初の数字になるように調整が図られていると予想されます。


 政府が何が何でも全都道府県の解除に持っていかなければならない理由のひとつが、支持率の急激な低下。昨日発表になった毎日新聞と社会調査研究センターの数字は衝撃的なものでした。
<内閣支持率27%に急落 黒川氏「懲戒免職にすべきだ」52% 毎日新聞世論調査>
https://news.yahoo.co.jp/articles/5494515f46e84d63a221c7980aff555987b9a862

 調査項目と結果が全文手に入ったので、数字だけでわかりにくいのですが、記録として載せておきます。

毎日新聞社・社会調査研究センター共同世論調査23日

?内閣支持率27%(-13)
   不支持64%(+19ポイント)

?政党支持率
・自民25(-5)
・立憲12(+3)
・維新11(0)
・共産7(+2)
・公明4(-1)
・国民1(-1)
・れいわ1(-1)
・社民1(0)
・N国1(0)
・支持政党はない36(+3)

?黒川辞職
・当然だ=33
・懲戒免職にすべきだ=52
・辞める必要はない=8
・わからない=6

?黒川定年延長の閣議決定の責任
・安倍首相にある=28
・森法相にある=3
・首相と法相の両方に責任がある=47
・内閣に責任はない=15
・わからない=6

?国公法成立見送り
・提出時のまま成立させるべきだ=12
・検察幹部の特例定年を削除して成立させるべきだ=36
・国家公務員の定年引上げに反対=38
・わからない=13

?首都圏と北海道の週明け解除見通し
・妥当だ=53
・解除の動きが遅い=6
・解除を急ぎすぎだ=31
・わからない=10

?解除後は
・経済活動の再開を優先すべきだ=23
・感染対策を優先すべきだ=42
・どちらともいえない=33

?「新しい生活様式」でどうする?
・できるだけ自粛生活を続ける=31
・段階的に自粛を緩めていく=64
・ただちに自粛をやめる=3

?新コロでの政権の対応の評価
・評価する=20(-2)
・評価しない=59(+11)
・どちらともいえない=21(-8)


 毎日新聞の調査は、3回前からオートコールに切り替えました。さらに携帯電話での調査も入れているので、精度は増しています。
 2016年のモリカケ問題のときに、支持率26%ということがありましたが、あのころは政権としての政策が批判されていたのではなく、スキャンダルのひとつだったので、多くの国民にとっては他人事でした。いつものように、説明をせずに公文書改ざんで何とか乗り切り、別の話題に関心が移るにつれて支持率も戻っていきました。
 しかし今回は政府としての政策そのものが問われている上に、検察庁法改正問題と賭け麻雀スキャンダルが合わさっているため、すぐには回復しません。そうなると官邸ではおそらくこんなことが検討されているでしょう。
1.緊急事態宣言を解除し、とにかく早く経済を回復基調に乗せる
2.10万円の次の生活支援策を打ち出す
3.中小・零細企業向けの支援策をさらに打ち出す
4.公務員の定年延長も先延ばしにして労組から野党(立憲)に圧力をかけさせる
5.別の重要法案を出して関心をそちらに向ける

……自分で考えていて情けなくなりますが、何か手を打たなければならないと、かなり焦っているはずです。
 自民党内では、政府に任せていられないということで、若手を中心にして「真水100兆円」の政策提言がなされました。
 すでに100兆円を超える経済政策が出されていますが、実態は30兆にも満たないもので、効果も限定的だということで与党内でも問題とされています。つまり、ハリボテであるということが身内からも指摘されているわけです。

 さらに、首相と法相での発言も食い違うくらいに混乱してしまっているために、国民にはさらに不信感をもたせてしまっています。
<「訓告」過程、首相と法相で違い
黒川氏問題、答弁に「疑義」も>
https://this.kiji.is/636555440369566817
<辞職した東京高検の黒川弘務検事長(63)に対する「訓告」処分を決めた過程について、安倍晋三首相と森雅子法相との間で、説明が大きく食い違っている。森氏は、内閣と法務省が実質的に決めたと説明。これに対し、首相は「検事総長が事情を考慮し、処分を行ったと承知している」と強調した。>
 安倍さんは、なんとか稲田検事総長の責任にしたかったのですが、実際は任命権者が懲戒処分を行うことになっているために、他人のせいにできませんでした。

 もうひとつ。広島の件もターゲットが絞られてきました。こちらも「最終調整」。
<河井克行氏、100人に2000万円超 検察当局、買収立件へ最終調整>
https://www.chugoku-np.co.jp/local/news/article.php?comment_id=645543&comment_sub_id=0&category_id=256
<昨年7月の参院選広島選挙区で初当選した自民党の河井案里氏(46)=参院広島=と夫の克行前法相(57)=衆院広島3区=が広島県内の地方議員らに現金を配ったとされる買収疑惑で検察当局が、克行氏が100人近くに総額で2千万円を超す現金を配ったとして公選法違反(買収)の疑いで立件する方向で最終調整に入ったことが22日、関係者への取材で分かった。>

 この原資になっているのが党本部からの1億5千万円なのですが、選挙の収支報告書や政治団体の政治資金報告書には、この一部の記載しかないために、検察は詳細を明らかにしようとします。

 検察庁法改正法案を通りやすくするために、公務員の定年延長を含めた「束ね法案」でどさくさ紛れに一気に通してしまおうとしたことは、すでに報じられています。この「束ね法案」というのは、実は2つを束ねたのではなく、10本束ねたものとなっているのです

1.国家公務員法
2.一般職の職員の給与に関する法律
3.国家公務員退職手当法
4.検察庁法
5.検察官の俸給などに関する法律
6.教育公務員特例法
7.警察法
8.自衛隊法
9.防衛省の職員の給与等に関する法律
10.会計検査院法

 これだけの法案を一緒にして一気に通してしまおうとしたために、余計に大事となりました。ちなみに、この「束ね法案」というのは、2016年に閣議決定で決められました。「目的がひとつなら、複数の法案を束ねることができる」というもの。理由はもっともらしくしてあるけれど、要は問題になりそうな法案を通すのは難しいので、通りやすいのと一緒にして一気に通してしまおうということなのです。


 平時であれば、特に問題無く進められて、支持率が一度落ちてもほとぼりが冷めれば持ち直すと見通せた。しかし、今は有事。全国一律に出した緊急事態宣言は比較的支持されているとはいえ、早く解除しなければ経済は回復不能なところまで落ち込んでしまう。
 3月頭の全国一斉休校も出口戦略の無いまま始めてしまったために、9月入学の問題とともに混乱してきて待ったなしの状況となっています。

 ツケが回ってきたとも言える状況の中で、政権にとって緊急事態とも言える支持率低下が突きつけられた今、明日の緊急事態宣言解除の報告では、安倍首相は逃げるわけには行かず、会見を開かなければならないでしょう。
 会見では、国民に全都道府県の解除を報告する一方で、生活支援、企業支援政策を発表し、「新しい生活様式」を訴えることになります。
 当然、中途半端になった賭け麻雀対応への質問も出るでしょう。「総理大臣として当然責任がある」「ご批判は真摯に受け止めたいと考えております」と言ってしまった手前、こちらも誤魔化すわけにはいかない。

 明日は、安倍首相にとっても重要な一日となります。国民に真摯に向き合っていかれるのかどうか。自分のことばで説明できるのか。


 漆嶋さんのエッセイは、今日から読み切り3部作となります。ホッと一息。
 人生の道理は政治にも通じるのでしょうか。

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【年末年始の情景につひて(その一)】

 漆嶋稔(翻訳家)

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