2009年5月19日号。<休校中の子どもたちには「読書感想文」の宿題を出して、出来た余暇に本を読む楽しさを教えればいいのに>。
4時起床。
トークショウの日がやってきた。新橋のヤクルトホールで18時開場、18時半開始である。ゲストは田母神俊雄閣下。司会は『ムーブ!』の女神、関根友実アナウンサー。いつも地方でやらせてもらっている講演とは少し毛色を変えて、プロジェクターを使い音響も工夫しているようだ。吉本興業のプロたちがかかわっていて、やっと私も所属してきたメリットを感じるかも(笑)。
詳細は先週の土曜日にお送りした『週報迂闊屋』をご覧ください。当日券もあるようですが枚数には限りがあるので、その点はご容赦を。
まあ、私らしいというか、新型インフルエンザの拡大という、日本人が久しぶりに体験する危機らしい危機のもとでの開催となった。戦後平和ボケの成果(苦笑)があちこちで噴出している事態の中で、である。
それらを同時進行で一緒に分析していける稀有な機会と言っていい。
とともにこれも私らしい悪運の強さだが、都内での感染拡大が起きていたならば、イベント自体の開催を考えなくてはいけないところだった。ひょっとすると、結果から見れば数日のタイムラグが幸いして参加者のみなさんと出会えることになったのかもしれないのである。
来場して下さるみなさんとは、十数時間後にお目にかかるのを楽しみにしています。今回は会えない方々とは、またぜひ違う場所や時間を考えますのでその時はよろしく。
私の地元である兵庫や大阪の知り合いたちから入ってくる情報を受けていると、なんだかよその国にいて戦場からのレポートを聞いていた時のような気分になって来る。
経済ではあらゆる場面で深刻な影響が出始めている。
私の本を出してくれている版元の社長からは本の商談会が中止になったという報告があった。その場での感染拡大を恐れたというよりも、書店主たちの多くが出席できなくなったというのである。それぞれの店でレジを打つパートの女性たちの数多くが休んだために、書店主たち自らが店頭に立たなければならなくなったためらしい。
ではなぜパートさんたちが大量に休んだかと言えば、学校が一斉休校したからなのだ。中学高校生ならばともかく、小学校を休まれると低学年の子どもを持つお母さんは家をあけるわけにいかない。保育所となればますますである。
風が吹けば桶屋がなんとかではないが、学校を一斉休校させることが経済に与える影響の深刻さを、当局はどこまで「想像力」をもって考えていただろうか。
書店での労働力が足りなくなるということで直接的には売り上げその他にマイナスが出る。しかし、それと同時にパートのお母さんたちはその分の収入が減るわけで、当然ながら財布の紐もしぼるわけであり、これは今後の地域経済にじわりと効いてくるだろう。
休校の様子はなかなかすさまじいことになっている。
<新型インフル感染者163人に>
http://www.asahi.com/national/update/0518/OSK200905180115.html
<幼稚園、小中高校、大学などの臨時休校は、文部科学省によると、大阪府内で1901校・園、兵庫県内で2142校・園の計4043校・園(18日午後5時現在、国公私立)にのぼる。内訳は、大阪府が幼稚園367園▽小学校535校▽中学校535校▽高校275校▽大学・短大52校など。兵庫県は幼稚園532園▽小学校820校▽中学校392校▽高校219校▽大学・短大61校など。>
これらの中の小学校や幼稚園のほとんどに、書店のそれと同様の働くお母さんたちがいるはずだ。スーパーでレジを打っている人たちなど何十倍にもなるだろう。それらの現場すべてで同様なことが起きているわけだ。
私がもっとも「前線からの声」を感じたのは尼崎市で開業医をしている弟に電話をした時だった。同窓会のソフトボールの後遺症で少し左手を痛めている私は(馬鹿・苦笑)その予後のことでときどき電話で相談をしているのだが、昨日、仕事場への道を歩きながらかけた電話の向こうでの弟の声はなかなか切実だった。私の訴えを聞く間もあらばこそすぐにこう言ってきたのだ。
「あのね、マスクを大量に買って送ってくれない?もうこちらでは、何十軒店を回ってもないんだ。現場のスタッフの分も足りなくなっている」。もちろん、店まわりをする前に医院に出入りしている業者には注文している。しかし、わずかでも入るのが金曜日。まとまった数になると7月以降になるのだという。いや、文字通り海外の戦争の現場で民間人に「医薬品とミルクが足りない」というニュースを見ている、あの気分である。
早速私は仕事場近くの比較的大きな薬屋に飛びこんだ。マスクをさがすがどうしても売り場が見当たらない。仕方なく店の人に聞くとレジの横の棚を指さした。見当たらないはずである。そこにはもう商品が影も形もないのである。わずかに2ブランドだけがぶら下がっていたが理由はすぐにわかった。医療機関従事者向けなどで突出して高価なのだ。
ケチな兄は一瞬躊躇したが(笑)えいっとばかりあるものをすべて買った。そして自分のためにいくつかだけを仕事場に置いて、残りを梱包すると宅配便で送り出した。今日の午前中には到着するはずである。
実はこのマスクの払底は末端の店舗で起きているだけではない。というよりも日本だけの問題ではないようなのだ。あるメーカーには支那から5億枚(!)の注文が入ったという情報もある。なぜか、メキシコを除くとマスクをしているのはアジアの人々ばかりだということだが、少なくともマスクを信じる人々の間では争奪戦が始まっていると言っていい。と同時に、この情報は支那政府がいまどれほど危機感を抱いているか、そしてまた「本当にあそこではパンデミックが起きていないのか」を考えさせるものだった。
一昨日の日記で私はその弟から聞いた話としてこう書いた。
<まさに兵庫県の臨床医である愚弟によると、地元ではウィルスの感染力などからかんがみて、現在のように疑いであっても入院を義務づけるような厚生労働省の指示の緩和を求める声が現場からあがっているらしい。
この調子で入院患者が増え続けると、他の重要な疾患を持つ病人のベッドが足りなくなるおそれがあるというのだ。>
このあと、中央が判断に迷っている間に神戸市は早速動いた。
<神戸市が「軽症者は自宅療養」/感染者増でベッド満床へ>
http://www.asahi.com/national/update/0518/OSK200905180073.html
<神戸市は18日、感染者が増加して病院のベッドが満床に近づいているとして、入院させるのは重症者のみとし、軽症者は自宅療養してもらうことを決めた。>
<入院か自宅療養かの判断は都道府県などに委ねられている>とはいうものの、これまではやはり厚生労働省の顔色をうかがってきた。しかしそれどころではないという果敢な判断だった。そして、ようやく今になって厚労省はそれをしぶしぶ追認し始める。
<“軽症”は自宅療養を検討へ>
http://www3.nhk.or.jp/news/t10013057941000.html
<新型インフルエンザで重症になる人が当初の想定より少ないとみられることから、厚生労働省は、感染がまん延するまでは患者全員を入院させるこれまでの方針を見直し、症状が軽い人は自宅で療養してもらう方向で検討することになりました。>
いつも書いているのでご承知のように、私は大東亜戦争でのいわゆる「軍部の暴走」はまさに現場を知らない「官僚の暴走」だったと書いた。あの時も、前線にはなかなか臨機応変な措置をとれる優秀な指揮官たちがいた。しかし、それに対して頓珍漢な命令を出し続けたのが、ひとにぎりの東京にいる大本営の「官僚」たちだった。どうも、今回の現場と霞が関の対応の違いを見ていると、いままた中央での「軍部の暴走」が始まっているという持論が再確認されてならない。
しかも、これまた当時と同様に対応があまりに遅いのだ。
<厚生労働省は、こうした方針について今週中にも結論を出したいとしています。>
なんでこんなことが即決できないの。しかも現場ではもう先行して「行われている」ことなのに。
ここでハッキリわかったのは「厚生労働省はいらない」ということなのだ。ある程度のグランドデザインは必要かもしれないが、事態が進行しはじめるとあとは地方に実権を渡した方がうまくいくということだ。
これは新型インフルエンザの緊急事態に限らない。あらゆることで地方への財源と権限の委譲こそが、効率的に国民の安全を守る最高の方法であるということを、はからずもウィルスは教えてくれつつある。
想像力と言えば、こうなることくらいわかっていたでしょう(苦笑)。
<【新型インフル】高校生らカラオケボックスに列/店長は困惑>
http://sankei.jp.msn.com/life/body/090518/bdy0905182300047-n1.htm
<大阪、兵庫の多くの小中学校、高校などが休校になった18日、関西の繁華街では平日にもかかわらず、カラオケ店に高校生らが殺到。外出を控えるよう求められていたが、生徒らの本音は「家ではやることがない」。店は大盛況だったが、店長からは「遊ぶための休みではないはず」と心配の声も。>
産経新聞の目のつけどころはなかなかよかった。抜かれた朝日新聞としては『築地をどり』の「ぼくちゃんいい子だもんねの所作」で対抗しなくては!というわけで十数時間遅れの配信。
<休校生徒のカラオケ「お断り」/近畿の店「感染防止」>
http://www.asahi.com/national/update/0519/OSK200905180132.html
<入店の際、学生証の提示を求めて休校の有無を確認。休校中の学校の生徒らが含まれていれば、入店を断っている。大阪の大半の学校で休校初日となった18日、朝から多くの生徒らが遊びに来たという。同社の広報担当者は「中高生だけでお客の3割を占め、経営的には苦しい決断。感染拡大を防ぐための措置なので理解してほしい」と話した。>
「歌う自由がおかされて軍靴の足音が聞こえてくる」のかと思ったが。わはははは。
ところで、タイトルの提案、どうでしょう。
産経新聞の産経抄は、昨日私と不肖・宮嶋茂樹センセイの著作をとりあげてくれた。
<【産経抄】5月18日>
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090518/plc0905180312000-n1.htm
例のピースボートが海上自衛隊に護衛されたという、ここでも紹介したお笑いだが、その中で私がまとめた不肖の処女作『ああ、堂々の自衛隊』を紹介してくれている。
親本はクレスト社刊だが、今読んでいただきやすいのは双葉文庫だ。
http://www.amazon.co.jp/dp/4575711047
まだお読みでない方、あるいはすでにお持ちの方はもう一度、ぜひ読んでみて下さい。今の政治の状況を見ながら読むと、ひとしおの感慨がある。あの時、国会で牛歩戦術をしたような連中が口をぬぐってどこぞの政党に潜り込んで知らん顔をしているのもよくわかる。来るべき総選挙の前に読んでいただき、地元の候補者の履歴とつきあわせていただくと面白い。
産経抄、オチも皮肉がきいていて実に秀逸だった。
<ところで、今のところ小紙しか、ピースボート護衛の事実を伝えていない。辻元さんが、設立を思い立ったのは、侵略を進出と変えたと報じた、例の教科書問題だったそうだ。誤報だったと認めたのも、読者のご存じの通り、小紙だけである。>
そう。『週刊新潮』に誤報だ謝れとわめきたてる朝日新聞は、まだひとことも認めていない。