『カツヤマサヒコSHOW』誕生の思い出

久保仁(サンテレビ編成部長)

 今回、世論社の高橋ヨロン社長から勝谷さんの追悼文を書いてほしいと頼まれました。
 果たして私みたいな人間が皆さんの前で亡くられた勝谷さんのことを何かうまく語れるだろうか?もっとかかわりの深かった多くの方々にご迷惑にならないだろうか?まして、追悼文など…かなり悩みました。もし、私が勝谷さんのことをお話しできるとすれば、サンテレビで放送していた『カツヤマサヒコSHOW』のことしかありません、とお答えすると、高橋さんから二つ返事で「それでいいから書いて」と…
駄文で大変申し訳ありませんが、少しだけお付き合いいただけると幸いです。

 あっけなくこの世を去った勝谷さんとの出会い。そして、多くの勝谷ファンの皆様に愛していただきました番組『カツヤマサヒコSHOW』の誕生について少しお話させていただきます。

 私が勝谷さんと知り合うきっかけは、2013年10月スタートのサンテレビの番組、『カツヤマサヒコSHOW』(2017年3月末で終了)を立ち上げることになったからです。当時、私は、毎週土曜日、お昼の生情報番組のプロデューサーをやっていました。しかし、生情報番組を金曜日に集約するという会社の方針で、番組の企画替えをしてほしいということになりました。いわゆる番組の改廃です。情報番組を3年間やって、まだまだ続けたい、もっとやれることはあると思っていました。それに一緒に苦労したスタッフ、出演者に申し訳ないという気持ちもありました。しかし、ずらりと並ぶ在阪各局の番組に対抗できるほど甘くはありませんでした。ここは、スパッと切り替えて、差別化できる番組をやるしかない!今度はうちにしかできないものをやろう!ギョッ!!と驚かせる番組にしよう!せっかくチャンスをいただいたから…
 まず、番組の方向性はハッキリしました。そして今度は、大人の方々に見てもらいたい。知的な部分はあるけど、少しだけヤンチャなトーク番組と考えていました。制作予算が限られる中で出来るだけ面白い、そして、あまりなじみがない方でやれる番組とは?誰を起用するのがうちらしいのか?そんな中、在阪局の人気番組で、ある方の降板がネットや世間を賑わせていました。もちろん、勝谷誠彦さんです。

 勝谷さんは、皆さんご存知の通り、キー局の朝の番組やラジオに多数出演。また、在阪局でも、人気の朝のバラエティ番組や、トーク番組(同じ局ですが…笑)、雑誌も多数連載されるなど関西でも有名な人気コラムニストでした。テレビ関係者の間では、人脈が幅広く、頭脳明晰、物おじしない過激な発言の方。そして、スタッフ泣かせの癖のある方という認識が一般的でした。彼の降板理由は、ネットにもいろいろ書かれておりました。番組で過激な発言をしすぎた。いわゆる触れてはいけないものに触れた的なこととか、スタッフにパワハラ的なことをしたとか。
 ですが、私はそうは思えませんでした。テレビはご存じのとおり、編集したら良い人にも過激な人にも出来るシロモノです。過激な発言が売りである勝谷さんは、編集でそういう発言ばかりを集めるとそんな印象にもなります。それに私は、何故か傷のある人が大好きで、それでよく失敗するのですが、勝谷さんはまさにピッタリの方でした。
 また、大物タレントさんは大体わがままなもんです。(後から、やっぱり彼はスタッフ泣かせで、いろんな方に迷惑をかけ、めちゃくちゃ苦労するとは思いませんでしたが…)

 それからは、恋したわけではありませんが、私の中でもの凄く気になる存在になりました。地元の有名人だし、彼だったら人脈も豊富、普段お目にかかれないゲストと腹を割った真剣トークが出来るのではないか。
 お酒の知識は天下一品だし、グルメ!! 元風俗ライターなので、綺麗なお姉ちゃんを横に座らせてアクセントをつけようとか…私の頭の中で、番組の骨子みたいなものが出来上がりました。何かの理由で番組を降板された方を起用するというのは勇気?無謀?賭けみたいなところもあります。会社からは反対される可能性もありますし、うちでも何か問題を起すかもしれません。
 けれども、なんとなく根拠のない自信はありました。勝谷さんとはうまくやって行けるのではないか。善は急げ!当時の制作部長に頼み込んで、とにかくご本人と会う約束を取り付けました。他局の番組で勝谷さんを起用していた仲良しのプロデューサーに、なんとなく「こんな番組がやりたいから伝えてほしい」とお願いしたら、すぐに心配されました。「大丈夫か?勝谷さんで?」(笑) 
 けれども向こうは乗り気満々で、「直ぐに会おう」と。決断が速いのも私向きで大好きでした。

 最初にお会いしたのは伊丹空港。帰京の際、フライトまで時間があるので少し打ち合わせしましょうというものでした。指定されたレストランに制作部長と2人で待っていると、向こうの方から小柄で猫背、重い荷物を肩から下げ、ふらふらと白髪の中年男性が歩いて来ました。サングラスの下から少しだけ見える眼光が不気味、そんな第一印象です。
 番組の企画概要もあまり聞かずにすぐさまビールを頼んで次にワイン。そそくさと飲みながら嵐のような早口で「番組やりましょう」と言い、「じゃあ」と言ってさっさと帰って行きました。なんかテレビで見る印象とは違って「小柄な変なおっさんやなぁ」と思いました。でも、本人が乗り気で少し安心しました。
 2回目の打ち合わせでは、番組の名前を「カツヤでしょう」が良いと言われて閉口しました。間違いなく『水曜どうでしょう!』のパクリだったから…勝谷さんは意外ですが、『水曜どうでしょう!』がそんなに好きだったのかと思いました。後日、名プロデューサーの藤村さんをゲストでお呼びしたのもそんな縁でした。それで、パクリのタイトルは困るということで『カツヤマサヒコSHOW』という番組名が決まったのです。

 番組構成は、勝谷さんが雑誌の編集長。榎木アナがそのアシスタント。バーでゲストと飲みながら真剣トークをする、というものです。榎木アナとは、彼女が入社以来ずっと番組をやっていた仲です。彼女は、ご存じのとおり、大のお酒好き!以前の番組の酒蔵巡りロケの後、出演者と散々飲んで、トイレから出て来たら額から血を流していたという逸話もありました(笑)。
 私は、最初から彼女がアシスタントじゃないと番組はやらないと決めていました。だってあの勝谷さんですよ?勝谷さんを圧倒するほど飲める女子アナじゃないと務まりません。実際、「女子アナがマジ飲みするのは反対」「彼は危険でコントロールできるのか?」とかで一旦はNGがでましたが、逆に「おもろいからやれ!」と応援してくれる先輩もいて、ずいぶん助けられました。

 当初、私のプランでは、セットは、高級ラウンジに綺麗なお姉さまを両脇に挟んで飲みながらゲストとトークするというもの。放送時間も23時以降、深夜を予定していたので、大人向けの知的でエロい話もありかな?そういう話をすると勝谷さんからはNGでした。シースルーの素敵なお姉さまが座っているとトークに集中できないと…実は、勝谷さんはかなりの照れ屋さん。そして、気に入った女の子の前ではお酒を飲まないとしゃべれない恥ずかしがり屋さん、ということがわかりました。
 そこで、バーのセットに変更しました。サントリー様のご協力で、ビールはもちろん、ワイン、カクテルいろんなお酒を提供していただきました。また、日本酒は、勝谷さんの大好きな獺祭をはじめ、お気に入りを数銘柄そろえて、いつでも飲める準備をしていました。
 バーセットには常連のお客さんとして女の子を2人座らせ、バーテンダーも実際に三宮でバーをされている方に、本格的なカクテルなどを作っていただきました。
 ここまでこだわると、普通のお店となんら変わりませんでしたが、私は、勝谷さんが「ゲストと一緒にこの酒を飲みたい」と言ったものは何が何でも飲んでほしいと思っていましたし、それが本音の真剣トークに繋がるのかなと…(もちろん健康上には配慮しておりました)このバーは、ゲストにも大好評でした。飲み放題!しかも好きなお酒やカクテルが無料です。番組の収録中に酔っぱらうゲストもいました(笑)。
 また、このバーテンダーの作るカクテルが大変気に入って、後日、お店に行かれたゲストもいらっしゃいました。

 番組の途中には、「勝谷編集長お勧めのお店」というコーナーを設けました。後日ファンの方が、勝谷さんと同じ席で同じものを出して欲しい、とお店を訪れることもあり、大変好評でした。ご覧下さった方にはわかると思いますが、榎木アナにお酒の飲み方や知識などを得意げに話しする勝谷さんは優しい良い顔をしていました。

 月2回の収録で2本撮り、ロケ2本とかなりのハードスケジュール。ゲストもお店も勝谷さんがOKを出すまでこだわりました。ゲストを決める際には無茶を言われることなど日常茶飯事です。既にゲストが来られているのに「誰が呼んだんやー!」って!そりゃ、勝谷さんでしょう?ベロベロに酔って来られて、とても進行など出来る状態ではなかったり、ロケをお願いしているお店での悪態ついたり。私は何度も謝りに行きました。
 「この人呼んでくれ!」「あそこ行きたい!」「ここでロケしたい」「あれは嫌い」…まるで子供が駄々をこねるとはこのこと…スタッフの苦労も大変だったと思います。私が企画したこの番組につきあわされて、ホント申し訳ないと何度も思いました。

 しかし、何故か許してしまうのは、私やスタッフがドMなのか?それとも惚れたものの弱みか?今もハッキリとはわかりません。言えるとすれば、勝谷さんは人間の煩悩そのものなのかなと思っています。
 コンプレックスのかたまりで、強がりで、ええかっこしい、一番頭がいいと思っているし、作家であり、写真家であり、風俗ライターで、若くて素敵な姉ちゃんと付き合いたい…どこかに謙虚なものというのを置いてきたような感覚。ある意味正直すぎるほど正直な人間。そんな魅力のある人間って他にいないでしょう?
 うちのスタッフで、勝谷さんに一番怒鳴られた彼が、通夜で人目もはばからず大泣きしていました。勝谷さんにはほんとうに感謝しています。スタッフを育ててくれて、いろんな場所(ご実家や軽井沢や東京)でロケもできました。また、普段お目にかかれない方々との繋がりを作っていただきました。

 いまだに早すぎる別れが信じられません。今年、2月末に勝谷さんとあるイベントでご一緒する機会がありました。楽屋を訪ねるといつもの調子で「久保ちゃん、そろそろ番組やらない?知事選のほとぼりも冷めたし…カツヤマサヒコSHOWのお店のところだけでもやろうよ!」

 私が勝谷さんと話した最後の言葉でした。彼がどれほどこの番組を愛していたか…嬉しかった。

 最後に、マネージャーのT-1君、ヨロンさんには陰に日向にサポートをしていただき、言い尽くせない感謝でいっぱいです。また、『カツヤマサヒコSHOW』を愛して下さった皆様、ほんとうにありがとうございました。2019年が皆様にとって素晴らしい年でありますように願ってやみません。長々と駄文にお付き合いいただき誠にありがとうございました!

※2019年1月13日(日)25:00~25:55
 勝谷誠彦さん追悼番組『カツヤマサヒコSHOW』を放送します。
彼の四十九日に合わせて企画しました。久々に、榎木アナが登場します。
よろしければ是非、ご覧下さい。